【Profile】
-浅草 彫三和-
1995/07/12
刺青師
初代彫祐一門
――彫師になったきっかけは?
難しいな (笑)。超難しいんですよね。決定的な何か一つってないんですよ。本当に色んな点が丁度繋がった時があって。なんだろうな、やりたい事がいっぱいあったんですよ。バーって箇条書きしてって、生活しながらどんどん消去法してった時に最後に残ったのが彫師だったんですよね。多分それっす (笑)。難しいなぁ。多分きっかけ10個位ある。後は、元々俺が刺青やってもらってた彫師の人が浅草にいて、その人とプライベートでも付き合うようになって、男が男に惚れるってあんまりないじゃないですか。でも惚れちゃったんですよ。それは、でかかったかもしれないですね。それでその人に弟子入りして、今に至るんですけど。
――人に入れる時のデザインのテーマ等はありますか?
刺青って死ぬまで消えないものだから、ある程度そこらへんを考えながら......。
タイムリーの話だと、背中に虎を入れたいってお客様がいて、ありがたい事にそこまでの条件をもらってるんですけど、後は任せるよって言ってくれてるんですよ。後、俺はタトゥーと刺青って言葉を区別して使ってるんですけど、刺青に関してはある程度こっちに身体預けて欲しい部分はあるんですよね。タトゥーって「ここに薔薇を入れたい。」って言ってそこに薔薇を入れて終わりじゃないですか。でも刺青って身体全部一つ使って一つの絵を仕上げる事が前提なんですよ。だから、例えば最初背中だけ入れ始めた人でも、その先の事も頭に入れてるし、身体一つで一つの絵になるから、物語を自分の中で作っていますね。
――尊敬する人や影響を受けた人は?
やっぱり自分の親方かな。元々自分が彫師をやろうと思っていない時からこの人うめぇなって思っていました。自分が彫師をやろうと思ってから、2年修行してから独立して。今彫師をやって4年なんですけど、自分がやる側になってもこの人が一番うまいなって俺は未だに思っちゃうんですよ。だから師匠なんですかね。でもこの答えすごくつまんないよね (笑) 。う〜ん。師匠以外でいったら、江戸時代とかまで遡っちゃう。伊藤若冲、葛飾北斎、歌川国芳とか。日本の刺青って結局元ネタってそこなんですよ。その時代に出尽くしていて、結局皆なにかの絵を描くにしてもそこらへんから拾ってきてる人が多くて。そこに自分のスタイルを混ぜて、自分の絵にする......。みたいな。題材としては出尽くしているから、それをいかに今っぽく自分ぽくできるか、かな。だから、江戸時代の人は俺の絵の先生っすね。
――自分自身の身体に初めて入れた刺青は何でしたか?
足首の家紋ですね。この家紋は、僕の家の家紋。最初親から刺青を凄い反対されていたんですよ。で、俺の覚悟っていうか......。別に親を悲しませたくはないけれど、ただ入れたいっていうだけではなくて。俺は刺青に、なんか凄い惹かれるものがあって。一発目で家の家紋を入れて、親を説得出来たらいいな。なんて思ってて (笑)。
――初めて自分が人に彫った物や、その時の心境を教えて下さい。
友達の脚に彫ったお面ですね。手はガタガタ震えましたよ。
――彫る場所で特に緊張する部位はありますか。
やっぱり普段から見える所ですかね。手の甲とか、脚の甲とか。日常的に見えるくせに凄い彫りづらいんですよ。綺麗に残らないし。でも未だに、どこの部位でも緊張しますけどね。
――タトゥーと刺青の違いはどう感じているか、より詳しく教えて下さい。
技法というか、彫る過程も違うし、考え方がそもそも違うと思うんですよ。タトゥーって、ワンポイント入れて一つの絵で完成じゃないですか。さっきも言ったんですけど、刺青は全部が繋がって一つの絵になる事が前提なので。後は、彫り方も違くて、俺は手彫りってやつでやってるんですけど、筋彫りっていうのは、マシンで引いてやります。手彫りって、それぞれの国だったり地域によって微妙に付き方が違うんですよ。手彫りっていうジャンルでいったらいくつかあります。後、今の現代でこそアメリカのタトゥーの良いところだけ日本に入ってきたりしてるんですけど、実際日本の刺青って、元々日本にあった物で全部完結出来るんですよ。後は、インクも違うかな。例えば、タトゥーの黒のインクがあるんだけど、俺だったら習字で使う墨を使っています。
――習字の墨ですか?習字でも自分で墨を磨る人は少ないですよね。驚きです。
意外とこれ皆びっくりするんですけど、ちゃんと硯があって。後この墨、金脱ぎがされてるんですけど墨を硯で磨ると、金がなくなって黒くなるんですよ。後、本当は刺青って青くて、墨の色って深い青なんですよ。それが人の肌に入って10年とか20年落ち着いてくると、どんどん青くなってくるんですよ。刺青って「刺す青」って書くじゃないですか。だから青って漢字を書くのかなって気もしています。
――彫る時の道具はどのような物なんですか?
彫る時の道具も一から自分で作るんですよ。広島の針のある工場で大量に針を買って。一本一本研ぐんですよ。刺青用に。それを、10.9.8本重ねていって作るんです。
......あ、刺青とタトゥーの大きな違い分かった!職人かアーティストかだ!俺が師匠からさんざん言われてきたのって、段取り八分って言われていたんすよ。お客さんを相手にしてる時は2割。準備が8割。例えば、鳶職だったり、火消しだったり、職人さんの仕事は段取り八分って言葉が使われてるんですけど、刺青もそれに近いのかもしれないですね。こうゆう道具の作る所だったり、頭でイメージしたりとか。準備でほぼ決まるかな。アーティストって言われるよりも、職人って言われる方が嬉しい。人からアーティストって言われる分には構わないんだけど。自分の気持ち的には職人でありたい。というか、心構えが大きく違うっていうか。
――今まで彫った中で一番苦労したものや、最も時間がかかった作品はありますか?
背中一面とか、片腕一本とかを仕上げてやってる人とかは、毎週来る時もあれば、何ヶ月に一回の頻度で来る時もあるんです。俺的に、この作品年内に完成させたいなって思ってても、その人のペースがあるから、もどかしい時もあったりもあるし。刺青は、共同作業なんです。お客さんと彫師の両方が上手く行かないと仕上がらないようなジャンルだから。他の彫師でやっていたけれど彫師と気が合わなくて、うちに来た人もいるし。俺がやってた人でも、もしかしたら他に行っちゃってる人も居るかもしれないし。仕事っていうより人間関係のバランス。普通の職業の関わり方よりも、結構深い所で繋がってるから。
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